第一年次活動報告(4)
ウガンダ国モロト県における生計向上支援と母子栄養指導を通じた栄養改善事
ウガンダの北東部に位置するモロト県では、住民の50%が急性食料不安または人道危機レベルの飢餓リスクにさらされており、多くの子どもたちの命が脅かされています。食料不安は子どもたちの栄養状態に大きな影響を与え、乳幼児死亡のほぼ半数(45%)が低栄養に起因します。さらに、栄養不良は子どもの認知発達の遅れや学力の低下につながり、子どもたちの健全な発達を妨げます。これまでウガンダの西部地域で母子の栄養改善事業を実施してきました。
その知見を活かし、2023年3月より、さらに環境が厳しい東部に位置するカラモジャ地域にて本事業を開始しました。カラモジャ地方のモロト県の子どもたちは、4割近くが慢性的な栄養不良の状態にあります。カラモジャ地方には、歴史的に多くの牧畜民が居住しており、主に畜産と雨に頼った天水農業で生計を立てていますが、頻繁に干ばつが発生するため、人々は食料援助に頼らざるを得ない状況です。貧困率も60.2%とウガンダ国内で最も高くなっています。
活動内容
1.農・畜産業支援を通じた生計向上
農・畜産業についての技術を農民に指導する計20人の混合農業普及員を対象に、気候変動対応型農法に関する研修を3日間に渡り行いました。気候変動対応型農法とは、農業の生産性向上を目指しつつ気候変動に対応した農業を行う方法や技術のことで、持続可能性を高めるために様々な方法を組み合わせて実践されます。研修では、ウガンダ国立農業研究機構(NARO)の専門家から、季節ごとの作付け計画や農作物および農地の管理、雨水等の自然資源の利用、作物栽培におけるニーズ、種子や農業資材の使用方法、養蜂の手法や蜂蜜製品の開発等、幅広いトピックを学びました。 上記研修後、混合農業普及員が主体となり、事業地域の農民100人および母親グループのメンバー400人を対象に、同様の研修を2回に渡り実施しました。同研修では、家畜や農作物、養蜂における気候変動に対応した農業の実践方法に焦点をおき、農家や母親グループの能力強化を図りました。
これまでに足踏み式ポンプ、鍬、じょうろ、噴霧器、ゴム長靴などの農業用道具を購入し、事業地域の5つの小規模生産者グループに供与しました。これらの道具は、各生産者グループで開設したモデル農園やグループメンバーの家の畑で様々な作物の栽培や収穫を行うために、大いに役立てられています。また、蜂蜜の収穫時に用いる蜂用スモーカ52個を新たに購入し、各グループに、10個ずつ供与しました。残りの2個については巣箱の点検と蜂蜜の収穫についての実演説明を行うときに使用される予定です。
小規模生産者グループのひとつであるロイェラボスグループは、農業用道具を活用し、ササゲ、玉ねぎ、スクマウィキ(ケール)、トマト等の野菜を育てています。収穫した野菜は、家庭で消費するだけでなく、市場で販売もしています。本事業では、肥料や種子などの農業資材購入のための資金を調達する能力を高めるために、各グループで村貯蓄貸付組合をつくり、貯蓄や投資についての研修を行っており、同グループでは、野菜の販売から得た収入を組合に貯金し、現在までに計450,000シリング (≒18,000円)を貯蓄しています。
同グループの秘書を務めるマリアさんは、「本事業に大変感謝しています。特に、足踏み式ポンプのおかげで、乾季の間も作物に水やりができています。みなさまのおかげで、私たちの子どもが飢えをしのぐことができます。」と話します。
ロラブルグループの代表であるアドモさんは、本事業での学びを生かし、新たに5ヘクタールの農地を家の庭に開墾し、トウモロコシや野菜を育てています。「この事業に大変感謝しています。研修に加え、実際に農業用道具を供与してもらえたことで、新しい農地を開くことができました。」と言います。
さらに、同グループでは、改良式巣箱に加え、各メンバーが各家庭で丸太等を用いて伝統的な巣箱を作り、意欲的に養蜂に取り組んでいます。子どもを3人育てる24歳のレベッカさんもグループから供与された改良式巣箱1基に加え、自身で手作りした4基の巣箱で養蜂を行っています。現在までに全ての巣に蜂が住み着いていることが確認できており、蜂蜜の収穫を心待ちにしています。改良式の現代的な巣箱を受け取ったことで養蜂に対するモチベーションが上がりましたが、同時に、伝統的な巣箱の良さにも気づくことができました。」と言います。
同グループの代表であるイサック氏も「私たちのグループでは、メンバーに家庭で伝統的な巣箱を作ることを進めています。私たちの考え方を広げてくださった本事業とサラヤ様に心から感謝しています。」と述べています。
2.母子栄養に関する保健サービスの改善
地域の母親と2歳未満の子どもたちの母子保健サービス強化のための活動を継続して行っています。事業地域の5つの保健施設を活用し、1対1の栄養カウンセリング、グループでのディスカッションや調理実演を取り入れた栄養啓発セッションを、妊婦や授乳期の女性、および男性を含む2歳未満の子どもの養育者計約1030人を対象に行いました。
村落保健チームが中心となり5つの保健施設で栄養スクリーニング活動を定期的に実施しています。新たに8人が重度急性栄養不良、17人が中等度急性不良と診断されたため、それぞれの子どもの栄養状態に合わせ、病院や保健施設へ紹介しました。また、今までのスクリーニングで栄養不良と判断された子どもや、そのリスクがある子どもをもつ世帯を継続的に訪問し、経過を観察し、改善に向けたフォローアップを行っています。保健施設職員と村落保健チームの能力強化のために、月に一度、その月の活動を振り返るためのミーティングも欠かさずに行っています。
さらに、事業地域の5つの保健施設への、栄養相談窓口の設置を完了しました。相談窓口では、訪問した母子の栄養状態を確認したり、栄養についての指導を受けることができます。これらの施設には、栄養スクリーニングのための、体重計や身長計、上腕周囲径テープ等も備え付けてあり、事業地域で乳幼児の栄養・保健に関するサービスが受けられるようになりました。
3.セクター間連携
本報告期間中に、他セクター間との連携およびリファラル体制(例えば、村の保健施設で診療・治療できない患者を都市部の病院に紹介、都市部の病院で治療した患者を村の保健施設へ送るといった病診連携システムのこと)の強化を目的に、準郡栄養調整委員会を開催しました。さらに、県レベルでも、県栄養調整委員会を開催するなど、様々な栄養に関する課題を多くのセクターを巻き込みつつ解決するために、セクター間連携強化に取り組んでいます。