第2年次活動報告(1)
ウガンダ国カセセ県における生計向上支援と母子の栄養改善事業 第2年次
ウガンダでは、国民の69 %が農業に従事しており、農業が同国GDP(国内総生産)の23%を占めています。これを背景に、同国政府の「国家開発計画(NDP)Ⅰ及びⅡ(2010~2019年)」では、農業を経済開発の中心セクターの一つとし、その成長を推進してきました。さらに、昨年より施行されたNDPⅢは、従来の貧困削減及び開発を中心とした施策から、経済成長により重点が置かれています。同計画で焦点を当てる18のプログラム第一項には、「農業産業化及び農業競争力の強化」が掲げられるなど、国民の食料安全保障向上がウガンダ全体で推進されています。他方、人口一人当たりのGNI(国民総所得)は、世界192ヵ国中178位(780米ドル)に位置し、一人当たりの所得が極めて低いことが深刻な課題でもあります。
所得水準が低いことにより、特に農村地域に暮らす母子は保健サービスへのアクセスや栄養不良の状況が依然として厳しい状態にあります。5歳未満の子どもの発育阻害(身長が年齢相応の標準値に満たない)は29%であり、最低食事水準 を満たす乳幼児の割合は14%に留まっています。また、鉄分不足により、6ヶ月以上5歳未満の子どもの53%、15-49歳の女性の32%が貧血です。
乳幼児期の低栄養は、身体機能だけでなく、認知機能や学習能力の低下に繋がり、妊娠可能年齢女性の低栄養は胎児発育を妨げる大きな要因の一つとなっています。これら課題への対応として、ウガンダ保健省は「性と生殖に関する健康と母子保健計画(2016/17-2019/20)」 を発表し、2020年までに5歳未満の子どもの発育阻害率を現在の29%から25%に下げる目標を設定しました。
こうした課題に対処するため、当会が実施する生計向上支援及び母子の栄養改善事業では、ウガンダ西部地域の中でも栄養不良の割合が他と比較して高いカセセ県の母子を支援の対象とし、地域の保健医療施設での栄養啓発活動を促進する他、農家の生産力や耕作知識の向上に向けた支援事業を実施しています。第1年次事業においては、栄養啓発活動が保健施設職員のみならず農家世帯にも浸透し、地域の人々の強いコミットメントが得られました。これらの活動を第2年次にも拡大しております。また、サラヤが取り組むウガンダにおける「100万人の手洗いプロジェクト」をさらに促進させられるよう、本事業では受益者や保健医療施設に対して、サラヤの衛生用品(手指消毒剤)を積極的に導入し、その使用を進めました。とりわけ、去年より新型コロナウイルス感染症の影響が世界的に深刻である中、ウガンダ国内においても、手洗いの励行及び衛生環境の保持が強く推奨されており、感染症予防の目的にも資する活動を合わせて展開しました。
活動内容
1.生計向上
- カセセ県農業局職員の声
セーブ・ザ・チルドレン(以下、SC)の活動は以前からよく耳にしていて、生計向上支援の対象となった農家世帯の収穫高が大幅に上がっているという成果をあちこちで聞いています。私は県農業局に勤めていますが、この9月にSCが主催する「世帯経済分析(Household Economy Analysis:HEA)」という調査に調査員として参加しました。(当会注:実地調査は10月後半に終了しました。)最初の1週間は、HEAの理論や調査手法を学ぶ研修に参加しました。
その後、調査主任と毎日村々へ出かけ、対象となる世帯に聞き取りを続けました。比較的暮らしに余裕のある世帯、中間層、貧しい家庭そして貧困の度合いがかなり高い家庭という4つのグループに分けて、のべ500人ほどの人々にヒアリングを実施しました。
自分自身も農村の出身ですが、改めて経済的階層に分けて村人の生計状況を調査すると、「牛乳を買えるのは多少暮らしに余裕のある世帯のみ。中間層以下は購入する余裕がない。」など、普段あまり意識していない格差がはっきりと見えました。
また、多少収入ができても、子どもの学費に回すため、日々の食事として鶏卵さえ買えない家庭も多くあることが分かりました(当会注:鶏卵1個は約15円)。調査に参加して感じたのは、「階層別に抱える問題も様々な特徴があり、受益者世帯に対する一辺倒なアプローチではしっかりとした解決が得られない。」ということであり、また、栄養摂取不良の問題は多くの世帯で依然深刻であり、農家世帯の収入増による食事摂取の啓発をもっと強化していかなければならないと痛感しています。今後もSC と農業局で連携を深めながら、農業の振興と村人の栄養摂取促進活動に尽力していきたいと思っています。
- 受益者の声:マリバ準郡 農家男性
私の名前はサレームと言い、39歳です。私には妻と6人の子どもがいて、一番小さい子は1歳半です。マリバ準郡では急な斜面に位置する村がほとんどで降雨があると作物が流されたりして、農業はほとんど諦めていました。ですから、これまでの収穫も最低限で、家族に食べさせる余裕もあまりなく、かろうじて収穫できたバナナや豆は市場に売ってその日暮らしをしているような状況でした。子どもたちの体調は常に悪く、私は魔女の仕業か何か、不運が取りついているのではないかと思っていました。少しお金が持てた時、病院に子どもを連れて行ったところ、医師からは「バナナやトウモロコシだけ食べているため、完全に栄養不良である。野菜など栄養のあるものをできるだけ食べさせなさい。」と言われたのですが、妻と6人の子どもに十分な野菜を食べさせる余力はありませんでした。
今年初めて、SCの農業研修に参加し、家庭菜園の取り組みを紹介されました。野菜の種の配給支援を受けて、人参、キャベツ、玉ねぎ、なす、トマト、アフリカほうれん草の栽培に挑戦したところ、わずか3か月ほどでたくさんの野菜を収穫できるようになりました。これらを妻に調理してもらい日々の食卓に並べるようにしたところ、家族の体調がみるみる改善し、病院に連れて行く回数がかなり減ったのです。
また、本業の豆栽培も研修で教わったとおりに実践すると、今まで40㎏ほどしか収穫できなかったものが、今では200㎏以上とれるようになりました。牛やヤギの糞、これまでごみとして処分していたバナナの皮などを肥料にすることで、驚くほどの生産高になっています。豆を売って得た収入の一部は、家庭菜園での野菜栽培に再投資したりして、上手く回っていると思います。今は、朝から夕方まで働くことに生きがいを感じています。
2.栄養改善支援
昨年より、地域の保健医療施設職員及び村落保健チーム(Village Health Team: VHT)と呼ばれる県の保健チームメンバーらに栄養改善指導の研修を実施しています。1年が終わったところで、施設職員らの能力強化は少しずつ成果を見いだせるようになってきましたが、依然抱えている問題があります。それは、シングルマザーの貧困家庭で、彼らは圧倒的に脆弱な立場におかれ、日々の収入はおろか毎日の食べ物にさえ苦労している世帯が多いということです。また、彼らは、上記医療施設から遠く離れた場所に住んでおり、山の斜面を片道2時間以上も上り下りしないと施設にたどり着けない、という状況です。
右の写真は当事業の受益者世帯ですが、父親はおらず、この日も母親は薪を取りに行っていたため不在であり、7人の子どもだけでわずかな食事を用意していました。VHTと当会事業ボランティアが毎日、同様の距離を歩いてそれぞれの受益者世帯を訪問し、母親と子どもたちの様子を確認していますが、母子家庭の場合、彼ら自身で医療施設に受診に行くことは難しく家庭菜園を作る余力もないことがほとんどです。VHTらはこの家庭の近隣の世帯らと話し合いを持ち、「まずはこの家庭に少しでも栄養のあるものを食べてもらう」目的で、共同で菜園を作って収穫できた野菜をこの家族にも配布するという試みにも挑戦しています。