マタニティブルーとは?よくある症状や対処法、注意したい産後うつ
監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方に向けた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
妊婦さんの心配の一つに、マタニティブルーがあるでしょう。「妊娠や出産を喜べなかったり赤ちゃんを見ても幸せを感じられなかったりしたらどうしよう」「子育てがきちんとできなくなったらどうしよう」などと思ってしまうかもしれません。
すでに気分の落ち込みを感じ、「自分はマタニティブルーなのだろうか」「気分はいつ改善するのか」「うつではないのか」などと考えて記事をご覧になっているママもいるでしょう。
マタニティブルーとは、妊娠中や出産後に生じる「一過性の情緒不安定な状態」をいいます。主な症状は軽度の抑うつ、涙もろさ、不安、集中力の低下です 。一過性ではなく治療が必要なうつ病とは異なります。なお、医学的には産後3~10日ごろに生じる不安症のことを「マタニティブルーズ」といいます。「マタニティブルー」は医学用語ではないため、正確にいえば「マタニティブルーズ」とは区別されます。しかし、一般的には妊娠中に生じるものを含むことが多いため、この記事では妊娠中、出産後の一次的な不安症を「マタニティブルー」としてご紹介していきます。
妊娠・出産は人生の一大事であり、前後で生活が大きく変化します。また、妊娠・出産の負荷によって心身も大きく疲弊するでしょう。このような状況のなかで「心の混乱」が生じるのはめずらしくありません。日本では、約30~50パーセントの妊産婦がマタニティブルーを経験するとされます 。「妊娠・出産したらよくあること」ととらえて、悩み過ぎないようにしてください。
今回の記事では、マタニティブルーの具体的な症状、原因、時期や対策、気をつけたい「心の不調」について紹介していきます。ぜひパートナーにも読んでもらい、一緒に理解を深めてください。
マタニティブルーのよくある症状や起こりやすい時期
まずはマタニティブルーの概要をつかみましょう。マタニティブルーの状態になるとどのような不調が生じるのか、マタニティブルーはなぜ起こるのか、いつ起こるのかについて解説していきます。妊娠後すぐのメンタル不調についても触れているため、妊娠前の方も参考にしてください。
マタニティブルーの具体的な症状
マタニティブルーの主な症状は、軽度の抑うつ、涙もろさ、不安、集中力の低下です。特に「涙もろさ」は特徴的で、重要なサインとされます 。具体的な自覚症状としては次の不調を感じますが、すべてが出現する訳ではありません。
《メンタル面の不調》
- 気分が落ち込む
- 急に泣きたくなる、涙が出る
- 情緒が不安定になる
- 強い恐怖心や不安感をいだく
- 物事に集中できない
- 焦りを感じる
- イライラする
- 自己嫌悪をいだく
- やる気が起きない
- 忘れっぽくなった
《身体面の不調》
- 不眠
- 食欲不振
- 過食
- 倦怠感
- 動悸
- 息切れ
- 頭痛
症状は、通常2週間ほどで治まり、特に治療を必要としないことが多いです。非常につらく苦しい状態ですが、通り雨のようなものと考え、心と体を休めて通り過ぎるのを待ちましょう。
マタニティブルーが起こる原因
女性ホルモンの変動
マタニティブルーの主な原因の一つは、産前・産後の急激なホルモンバランスの変化と考えられています。特に出産直後の変動は大きく、妊娠中にエストロゲンとプロゲステロンを大量に分泌していた胎盤が排出されるため、体内のエストロゲン量とプロゲステロン量が大きく低下し、ほぼゼロになるのです。
このような急激なホルモンバランスの変化が自律神経のはたらきに影響をもたらし、精神的な不安定さを中心とした心身のさまざまな症状を引きおこすと考えられています。
心理的ストレス
心理的ストレスも、マタニティブルーの原因の一つと考えられています。初めて妊娠・出産を経験した女性や、もともと精神的な不調を抱えていた女性、周囲のサポートが少ない女性、夫婦関係などの家族関係に問題を抱えた女性に、マタニティブルーの発生が多いためです。
妊娠・出産により生活は大きく変わります。思うように外出ができず、行動が制限されることも多くあります。育児や将来に対する不安もあるでしょう。大きいおなかや生まれたばかりの赤ちゃんを目にして、母親としての責任にプレッシャーを感じるかもしれません。産後の体の変化への受容も必要です。
これらのさまざまな要因が心理的ストレスとなって、マタニティブルーの発生に関与するとされています。
体力の低下や睡眠不足
妊娠中の疲労、出産による体力の低下、授乳や育児による疲労や睡眠不足などもマタニティブルーの発生に影響すると考えられています。
マタニティブルーが起こりやすい時期
マタニティブルーは、妊娠中なら妊娠初期から妊娠中期、出産後なら早期に起こりやすいとされます。多くの場合、期間は2週間程度の一過性です。ただし、発症時期や期間には個人差があります。
妊娠中のマタニティブルーは、妊娠に伴うホルモンバランスの変化、ひどいつわりや食欲不振、体型の変化、思うように体が動かない心理的ストレス、出産に対する不安、将来に対する不安などが要因になります。抑うつが重度になると、治療が必要な「妊娠期うつ病」に移行するおそれがあるため注意しましょう。
出産後のマタニティブルーは、産後3~10日ごろに発生し、通常は2週間ほどで消失するとされています。体内のエストロゲン量やプロゲステロン量が急激に低下し、生活や環境の変化、育児の疲労などに直面するためです。
なお、一般的にいわれているマタニティブルーの中でも、前述のとおり医学的には出産後に生じるものをマタニティブルーズとよび、妊娠中の気分の落ち込み、不安や抑うつとは区別されます。ホルモン変化のメカニズムに違いがあるためです。
マタニティブルーが起こったときの対処法
前述のとおり、マタニティブルーは半数近くの妊産婦が経験するものです。「可愛い赤ちゃんを授かったのに、なぜうれしくないんだろう」「なぜ悲しいんだろう」などと自分を追い詰めず、「妊娠・出産したらよくあること」ととらえて、ゆっくりと休養してください。決して一人で抱えず、周囲の人に気持ちを表出して助けを得ましょう。積極的に気分転換を図ることも重要です。
誰かに話す
不安や悩み、悲しい気持ち、つらい気持ちを一人で抱えず、家族や友人、先輩ママ、医師や助産師、保健師などに積極的に話しましょう。話がまとまらなくてもよいので、現在の気持ちを言語化し、感情を表に出すことが大切です。ママ向けのイベントや病院や産院で行われている母親学級へ参加したり、お住まいの自治体が行っている妊産婦向け相談窓口・電話相談などのサービスや民間で行っているサービスを調べて利用するのもよいでしょう。
マタニティブルーになりやすい人には、責任感が強い、完璧主義、我慢強い、一人で抱え込みやすい、感情を表出するのが苦手などの傾向がみられます。「話しても何にもならない」「相手に負担」「迷惑をかけてしまう」などと思わずに話していきましょう。
ゆっくり休む
マタニティブルーに限らず、精神的な不調の際は十分な休養が必要です。パートナーや家族の協力を得て、ゆっくりと休みましょう。十分寝ることも大切です。また、仕事を休んだり家事を家族に任せたり、赤ちゃんを預けたりして、自分のためだけの時間をつくるとよいでしょう。外出して気分転換をはかることも重要です。頼れる家族がいない場合は、お住まいの自治体の助産師や保健師、またはかかりつけの病院に相談し、受けられるサービスがあるかなどの情報を積極的に得ていきましょう。
軽く運動をする
負担にならない程度の軽い運動を行ってみましょう。運動は自律神経を整え、ストレスを解消します。また、脳内のセロトニンの分泌量が増えて心に安らぎをもたらす効果もあるのです。
ウォーキングなどで外の新鮮な空気を吸えば、気持ちのリフレッシュにつながるでしょう。外に出るのが難しければ、室内でできるマタニティヨガやピラティスなどもおすすめです。
マタニティブルーとあわせて気をつけたい産後の心の不調
産後は、マタニティブルー以外にも心の不調が生じます。なかでも産後うつ病は日常生活に大きな影響をもたらす精神疾患です。マタニティブルーが重症化して起こる場合もあるため、注意が必要になります。また、近年はパパの心の不調にも注目が集まっているようです。
マタニティブルーと間違えやすい「産後うつ病」
マタニティブルーと「産後うつ病」は混同されやすいですが、別のものです。マタニティブルーは多くの場合、治療を必要としない一過性の精神的な不調、産後うつ病は専門的な治療が必要な精神疾患になります。
もともと産後は精神疾患が生じやすい時期です。最も多いのが産後うつ病で、産婦の約10~15パーセントにみられ、治療につながらないケースも多いとされます 。重度の抑うつ、不安、焦燥、不眠などが続き、放置すると将来的な育児ネグレクトや虐待、自傷などのリスクとなるため、心療内科や精神科の受診が必要です。治療は、おおむね一般的なうつ病の治療に準じます。
マタニティブルーが産後うつ病に移行するケースは5パーセントほどあると報告されています。マタニティブルーの抑うつ症状が2週間以上持続し、日常生活に支障が生じる状態になった場合は、産後うつ病を疑いましょう 。
パパにも起こる「パタニティブルー」
近年は、赤ちゃんが生まれた後に抑うつ状態になる男性が多くみられ、「パタニティブルー」という言葉も広がっています。専門的な用語ではなく、マタニティブルーのパパ版としてつくられた言葉です。マタニティブルーと似た部分があり、パパにも育児参加が求められるようになった結果、生活や環境の変化が心理的ストレスになり、将来の不安などが重なって抑うつ状態になるケースが多いようです。
パパも心の状態に気を配り、ゆっくり体を休めたり、誰かに話を聞いてもらったりして、ストレスをためないようにしましょう。
一人で無理に頑張ろうとせずに周囲の理解や助けを求めましょう
マタニティブルーは多くの場合、一過性のものです。しかし前述のとおり、重症化して産後うつ病などの精神疾患に移行する例もあるため、注意が必要です。
「母親」という言葉は、今でも大きな重みを持ちます。「母親なら〇〇して当然」、そんな言葉も耳にするでしょう。しかし、子育てはママが健康であってこそできるもの。子どものためと思って、積極的に周囲の理解や助けを求めてください。パートナーや両親、きょうだい、友人、近所の先輩ママ、医療機関や行政の相談窓口でもよいでしょう。
今後も子育てのために周囲のサポートが必要な場面が何度もあります。そのための環境づくりと考えて、気軽に周囲の力を借りてください。