妊娠線はいつからできる?気になる疑問や線ができる理由、ケアの方法
監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
妊娠後、徐々におなかが大きくなると、赤ちゃんの存在を実感できるようになります。わが子の誕生を待ち望むプレママ・プレパパは、ドキドキわくわくの日々でしょう。
一方でプレママは、おなかが大きくなりはじめると、身体の生理的変化に伴うさまざまな悩みも多くなる時期です。よくある心配の一つが妊娠線。約50~80パーセントの妊婦さんに出現する といわれますが、膨んだおなかにいくつも現れ出すと、「どんどん増えていくのかな?」「消えるのかな?」などと不安になるでしょう。
妊娠線とは、「妊娠に伴う体型の急激な変化によって皮膚(以下、皮ふ)上に現れる、ひび割れのような線」のこと。皮ふが引っ張られたために、表皮の下の真皮が裂けて生じます。
代表的な妊娠線は、大きくなったおなか(特に子宮のある下腹部)にいくつも走る、スイカのしま模様のような線です。
本記事では、妊娠線ができやすい人や部位、できる原因など、妊娠線にまつわるさまざまな疑問にお答えし、ケアの方法や、痕(あと)を目立たなくする対策法などを紹介していきます。
妊娠線についてのよくある疑問
多くの妊婦さんの体験談の中から、妊娠線についてよくある疑問をピックアップして詳しく解説します。妊娠線を効果的にケアするために、参考にしてみてください。
妊娠線ができるのはいつから?
妊娠線は、妊娠初期にみられるケースは少なく、早くて妊娠6か月ごろ、多くは妊娠8か月ごろから生じ始めます(個人差があります)。なかには、軽いかゆみやピリピリした刺激などの症状を伴う場合もあります。
皮ふが伸びる方向に対して直角に波状の線が現れ始め、しだいに線が増え、放射線状に広がる場合もあります。線の幅は2~5ミリメートル、線が長くなると、ほかの妊娠線とくっつきやすいです。
出始めの線の色は、赤紫やピンク色をしています。これは、皮ふの下に無数に走る毛細血管が透けて見えるためです。以降、色素沈着が生じて黒ずんだ褐色調になり、産後は白くなって目立たなくなる場合が多いです。ただし、完全な消失はほとんどありません。
妊娠線ができやすい場所は?
妊娠線が現れるのは、おなかだけではありません。妊娠に伴って大きくなるバスト(胸・乳房)、脂肪が厚くなる太もも(大腿部)、ヒップ(お尻・臀部)などにもよく見られます。
なお、おへその下から恥骨の下まで、まっすぐ伸びる黒っぽい線は「正中線(せいちゅうせん)」で、妊娠線とは別物です。妊婦さんに限らず、生まれながらに誰でも持っているものですが、妊婦さんの約70パーセントは、妊娠中期ごろから正中線が濃くなり目立つようになります。妊娠線と異なり、正中線は産後に消えるケースがほとんどです。
妊娠線ができやすい人の特徴は?
乾燥肌の人
妊娠線は、皮ふが乾燥しているとできやすくなります。乾燥している皮ふは柔軟性が乏しく、伸びる力が働いた際に断裂が生じやすくなるためです。後ほど説明しますが、妊娠線の対策に皮ふの保湿ケアはとても重要です。
多胎妊娠の人
双子など複数の胎児がおなかにいる多胎妊娠の人も、妊娠線ができやすくなります。単胎妊娠よりもおなかが大きくなりますから、皮ふの伸びも大きく、断裂が生じやすくなるのです。
経産婦
出産を経験している人は、初産婦に比べておなかの皮ふが伸びやすいため、妊娠線が生じやすくなります。初産婦よりも皮ふの柔軟性は高いですが、伸びるスピードが速くなり過ぎるため、断裂が生じやすくなるのです。
高齢出産の人
皮ふは加齢により乾燥して柔軟性が乏しくなる傾向があるため、妊娠線ができやすくなります。
小柄な人
体格が大きい人に比べると、おなかの皮ふがより引っ張られるため、妊娠線ができやすくなります。骨盤も小さいため、おなかが前方に膨らむ傾向があり、一部の皮ふに力が加わりやすくなります。
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妊娠線ができる理由
妊娠線は、すべての妊婦さんにできるわけではありません。冒頭で説明した通り、妊婦さんの約50~80パーセントにみられるとされており、40パーセントと示すデータもあるようです。割合に幅があるのは、小さな線やおなか以外の線を含めているかどうかの基準に違いがあるからでしょう。
妊娠線は、妊娠に伴う急な体型変化に皮ふが耐えられずに生じ、妊娠に伴うホルモンバランスの変化も影響します。妊娠に伴う生理的変化と妊娠線ができるメカニズムについて、詳しく説明していきましょう。
急な体型変化に皮ふが耐えられないため
妊娠線は、妊娠に伴う急な体型変化に皮ふが耐えられず、表皮の下にある「真皮」の組織が裂けて生じます。
皮ふは、表皮、真皮、皮下組織の3層でできています。
表皮はとても薄い層で、皮ふ表面を覆い、外部刺激から皮ふを守ります。伸縮性は強いです。
一方、真皮は表皮の15倍~40倍の厚さがあり、コラーゲンやヒアルロン酸などの成分や弾性繊維が豊富で、弾力性があります。外部からの衝撃を和らげるクッションの役割を果たすのです。しかし、横への伸びにはやや弱い構造になっています。
妊娠中は、おなか周りを中心に皮下組織の脂肪(皮下脂肪)が厚くなり、普段よりも真皮や表皮が張って伸びている状態なので、真皮が裂けやすいのです。
ホルモンの影響により真皮が断裂しやすくなっているため
妊娠中は、副腎皮質ホルモンが多く分泌される影響で、真皮の弾力性が乏しくなり、断裂しやすくなっています。副腎皮質ホルモンは、真皮の弾力性を保つコラーゲンの生成や、皮ふのターンオーバー(新陳代謝)を抑制する働きがあるのです。
妊娠線への対策
できた妊娠線の完全な消失はまれですから、妊娠線ができる前の早い段階から予防的にケアすることが重要です。妊娠線は産後、白くなって目立たなくなる場合が多いものの真皮の深い損傷は修復されにくいため、ほとんどのケースで痕(あと)が残ります。
対策法①:体重の急激な増加を抑える
皮下脂肪が厚くなると、妊娠線はできやすくなります。皮下脂肪の厚さに圧迫されて真皮が張って伸び、断裂しやすくなるのです。妊娠すると胎児を保護するために、ただでさえ、おなか周りの皮下脂肪が厚くなりますから、妊娠中の体重管理には気をつけましょう。カロリー制限だけでなく、ウォーキングなどの適度な運動も行いたいものです。
腹帯や腹部を支えるガードルの使用で皮ふの伸びを予防する方法もあります。使用する際は、産婦人科の医師や助産師に相談してみましょう。
妊娠中は、胎児や胎盤、羊水、血液や体内の水分増加、生理的な皮下脂肪の増加などで、体重も増えるのは必然ですが、適正体重内に抑えましょう。妊娠前の体重にもよりますが、標準体重だった人は1週間で500グラム以下の増加が目安です。空腹になると気持ちが悪くなる「食べつわり」がひどい人は特に注意が必要。脂肪分の少ない食べ物を選ぶようにしましょう。
対策法②:保湿ケアを行う
妊娠線の対策に、スキンケアは重要です。皮ふが乾燥して伸びにくくなると、妊娠線ができやすくなります。妊娠線ができやすい部位(おなか、バスト、太もも、ヒップ、二の腕など)にマタニティクリームなどの保湿アイテムを塗り込んで乾燥を予防し、皮ふをやわらかくしましょう。
毎日、風呂上がりに加えて1〜数回、塗るとよいでしょう。
対策法③:早めに妊娠線のケアを始める
体重管理や保湿ケアなどの妊娠線対策は、安定期の前、徐々にお腹が大きくなっていく妊娠4か月~5か月から始めるのがおすすめです。早めに皮ふ(お肌)をやわらかくしておきましょう。少なくとも、妊娠線のできやすい妊娠6か月~8か月より前からのケアが重要です。
妊娠線が気になってしまいそうな場合は妊娠中〜産後のケアを
妊娠線ができる仕組み、妊娠線のケアや対策の方法について、理解が深まったでしょうか。出産後の妊娠線が気になってしまいそうな方は、なるべく早めに対策を行いたいですね。特に、皮膚の保湿をしっかり行い、乾燥を防ぐのがポイントです。
デリケートな妊娠中の肌のことを考えると、マタニティクリームは弱酸性、低刺激、無添加がおすすめ。香りは少ないか、無香料がよいでしょう。赤ちゃんにも、自分の産後のボディケアにも使えると便利です。