妊婦さんのお風呂、どうする?|入浴に関する注意点、気になる疑問
監修:監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
初めての妊娠の場合、食事や睡眠、運動など、さまざまな生活行動がお腹の赤ちゃんに影響を与えないか、心配になるでしょう。入浴についても、「今までどおり湯船に全身を浸かってよい?」「シャワー浴で済ませるべき?」などと、不安に思う妊婦さんが多いようです。
湯船に浸かると、お腹に水圧がかかりますし、胎内の温度も変化しますから、赤ちゃんへの負担が心配になります。湯の成分などが膣口から入って何らかの影響を与えないか、考えることもあるでしょう。
妊娠中のお風呂はどうしたらよいのでしょうか。入浴するならば、どんな点に注意が必要なのでしょう。本記事では、お風呂にまつわる疑問や注意点を詳しく解説していきます。
妊娠中でもお風呂に入って大丈夫?
まずは、「お風呂に入ってよいか」から。妊娠中は、汗をかきやすく、おりものも増えますが、体の清潔をどのように保てばよいのでしょう。「湯船に浸かる」と「シャワーを浴びる」どちらを選択すべきでしょうか。詳しく解説します。
妊娠中もお風呂に入ってよい
結論をいえば、妊娠中もお風呂で湯船に浸かって大丈夫です。むしろ、毎日あるいは1日おきに湯船に浸かることが推奨されています。妊娠中の運動不足解消のエクササイズとして、産科医や助産師の指導のもとで温水での妊婦水泳(マタニティスイミング)などが行われているくらいですから、安心してお風呂に入ってよいでしょう。
湯船に浸かると、湯温や水圧による適度な圧迫がマッサージ効果となり、血行の改善や促進が期待できます。体が温まることで、むくみや腰痛、肩こりへの対策にもなるでしょう。
お風呂には心理的な癒し効果もあります。心と体のリラクセーションになり、ストレスや疲労を和らげる効果も期待できます。
お風呂がつらい場合は無理をして入る必要はない
血行促進やリラクセーションなどをはかることができるからといって、無理して湯船に浸かる必要はありません。つわりや体調不良、風邪で発熱などがある場合をはじめ、お腹が張る場合、体が重くて負担を感じる場合なども、湯船に浸かるのは避けてシャワー浴にしましょう。
妊娠中は、妊娠前よりもめまいや立ちくらみを起こしやすいですから、転倒対策の観点からも無理はしないほうがベター。シャワー浴などで毎日、体の清潔を保てば十分です。また、長湯は避けましょう。
半身浴については、血行に影響を与えることから専門家によって意見が分かれるため、医師に確認しましょう。
妊娠中は体の清潔に気を配ろう
妊娠中は、新陳代謝が高まり、汗や皮脂が分泌されやすく、おりもの(帯下)も増えます。皮ふや粘膜、外陰部を清潔に保つために、できれば毎日入浴しましょう。妊娠初期や妊娠中期、妊娠後期いずれの入浴も、後述する注意点を守れば問題ないとされています。ただし、切迫流産や切迫早産などで要安静の場合の清潔方法については、主治医の指示に従ってください。
妊娠中は、匂いに敏感になりますから、ボディソープやシャンプーなどは、香りの弱いものを使うとよいでしょう。また、妊娠中は肌が敏感になる人もいるので、いつもより低刺激なアイテムだとより安心です。
赤ちゃん用のベビーソープを自分自身に使ってみるのもよいでしょう。赤ちゃん用のアイテムなので、肌への刺激が少なく、出産準備にもなります。
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妊婦さんがお風呂の際に気をつけたいポイント
妊婦さんには毎日あるいは1日おきの入浴(シャワー浴)がすすめられますが、安全性やスキンケアの観点から、いくつかの注意点があります。しっかりと確認してトラブル対策をしましょう。
温度や入浴時間
清潔で、適切な温度(38℃~41℃くらい)のお湯を使い、入浴時間は10分以内にします。42℃以上の高温のお湯、30℃以下の低温の水に浸かるのは、血圧が上昇する可能性があるため、避けたほうがベターです。深部体温が上昇しすぎて胎児に影響を与えないようにするためと、のぼせや立ちくらみを防止するためです。
転倒
妊娠中は、お腹が大きくなって足元が見えにくかったり、重心が変わったりするため、ふらつきやすく、転倒に注意が必要です。
脱衣所やお風呂の洗い場、浴槽の中は滑りやすいため、服を脱ぐとき、浴室に入るとき、体を洗うとき、浴槽をまたぐときなど、特に注意しましょう。立ちくらみも起こりやすいので、お風呂から出るときはゆっくりと。
お腹を強く打ったりすると、安定期に入るまでは流産、妊娠後期は切迫早産や前期破水の危険性も生じます。転倒して出血があったらすぐ病院に行きましょう。
お風呂に入る際は、何か異変があったらすぐに助けを呼べる状態にしておくことも大切です。できれば頼れる人がいるときに入るか、近くに携帯電話を置いておくと安心です。
肌の乾燥
妊娠前後、特に産後はホルモンバランスの変化によって肌のバリア機能が低下し、乾燥しやすくなります 。
乾燥しやすい冬だけでなく夏も、入浴後の保湿ケアが重要。刺激の少ないスキンケア製品を選び、保湿と紫外線対策をしっかり行いましょう。
脱水
妊娠中は脱水になりやすいため、お風呂に入る際は、水分補給を欠かさないようにしましょう。脱水傾向になると、血圧が低下して、ふらつきやめまいが起こりやすくなります。お風呂から出たあとも、しっかりと水分補給を行うようにしましょう。
妊婦さんが気になる入浴に関する疑問
最後に、入浴剤の使用、温泉の利用について解説していきます。
入浴剤は使ってよい?
妊娠中でも、入浴剤の制限はありません。製品によっては香りがきつく感じて吐き気の原因になったり、浴槽が滑りやすくなったりするため、入浴剤は注意して選んでください。敏感肌の妊婦さんは、低刺激タイプの製品を選ぶとよいでしょう。
妊婦さんには、無機塩類系や炭酸ガス系の入浴剤がおすすめです。無機塩類系の入浴剤は、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウムなどを主成分とするもので、保温効果が高く、湯冷めしにくくなります。炭酸ガス系の入浴剤は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどにコハク酸、フマル酸、リンゴ酸などが加わったもので、筋肉をほぐして血流を促進する効果がありますから、冷えや肩こり、腰痛への対策にもなるでしょう。
温泉に入ってよい?
妊娠中に温泉に入ってよいかですが、特に問題はないとされています 。泉質による違いもありません 。不安な場合は主治医に相談しましょう。ただし、サウナなどは避けたほうが無難です。
温泉に関する法律「温泉法」の中に、温泉施設は「禁忌症」を掲示しなければならないと定められていて(第18条) 、禁忌症の中に「妊娠中(特に初期と末期)」が盛り込まれていましたが、2014年(平成26年)に最新の医学的知見等を踏まえて削除されました。
温泉で注意が必要なのは感染です。できるだけ清潔な施設を利用しましょう。また、泉質にぬめりがあったり、湯気で視界が悪かったり、浴場が滑りやすい場合もありますから、転倒に注意してください。
妊娠期間中はなるべく遠出を避ける方がよいですが、もし遠出するのであれば、安定期である妊娠中期に行きましょう。その際は、事前に医師の許可をもらってください。
妊娠後期で温泉に行く場合は、何かあったときにすぐ受診できるように近場の温泉を選びましょう。また、臨月(妊娠10か月)に入ったら、陣痛や破水がいつ起きてもおかしくないため、温泉へ行くのは避けてください。
トラブルに注意して入浴を楽しんで
これまで見てきたように、温度や入浴時間、転倒などに気をつければ、妊娠中でもお風呂を楽しむことができます(切迫流産や切迫早産などで要安静の場合は除く)。お風呂で湯船に浸かると、リラックスして気分転換になったり、疲れが癒えたりするでしょう。
ただし、妊娠中はホルモンバランスが乱れて肌のトラブルが生じやすくなっていますから、ボディソープは肌への刺激が少ないものを選びましょう。出産準備として、赤ちゃん用のベビーソープを使うこともおすすめです。また、入浴後の肌は特に乾燥しやすくなっています。マタニティクリームなどでしっかりと保湿しましょう。
香りや肌への刺激の少ないものであれば、入浴剤の使用もOK。状態に合った新しい入浴剤を選ぶなどして楽しい入浴ライフを送り、健やかな妊娠期を過ごしてくださいね。