妊婦さんは花粉症が重症化しやすい?服薬の可否や薬を使わない対策
監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
日本耳鼻咽喉科学会が報告した全国調査によると、2019年の花粉症の有病率は42.5%に達し、20年前の1998年から倍以上に増えています。花粉症は2人に1人が苦しむ「国民病」という状況です 。
そのため、花粉症に苦しむ妊婦さんも大勢いると想像できますが、「妊娠中は胎児への影響を考えて薬の服用は最小限にするべき」などの話もあり、重度の症状があっても薬を使用せず耐えている方は少なくありません。また、頻繁な咳による腹部の圧迫を心配される方も多いと思います。また、産後で授乳中の方は赤ちゃんへの影響が気になるでしょう。
そこで今回の記事では、妊娠・出産と花粉症の関係、薬の使用、対策や過ごし方などについて解説します。少しでも、花粉症に苦しむママさん・プレママさんの安心材料になれば幸いです。
実は妊婦さんは花粉症が重症化しやすい!
妊娠中は、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎が出現したり悪化したりしやすくなる傾向があります。妊娠によるホルモンバランスの変化、妊娠によるストレス、血のめぐりの悪化によるうっ血などが原因です。
特に、妊娠中に増加する女性ホルモンの「エストロゲン」「プロゲステロン」は、鼻の粘膜を活性化し、鼻水を出やすくしたり、粘膜をふくらませ鼻をふさぎやすくしたりします。
このような女性ホルモンの変化により、妊娠後に鼻水・鼻づまり・くしゃみなどの症状が悪化し、花粉症が重症化する とされています。目のかゆみについても女性ホルモンのバランス変化によるアレルギー反応の活性化などが原因とされます。
妊娠中に花粉症の薬を使ってもよい?
説明の通り、妊娠により花粉症になりやすく、症状も重症化しやすくなりますが、果たして妊娠前のときのように薬を使って症状を抑えることはできるのでしょうか。
●花粉症薬の使用は可能?
胎児への影響を考え、妊娠中に薬を使ってよいか、悩まれている妊婦さんも多いでしょう。また、授乳中の薬の使用も心配になるかもしれません。
医療界では長く「妊婦には薬をなるべく使わない」方針が続いてきましたが、研究が進み、低リスクで使える薬物、安全性の高い投与方法が解明されてきました。米国の食品医薬品局(FDA)の基準や、オーストラリア基準などがつくられ、日本でも2023年に日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が合同でガイドラインを示しています。限られた範囲ではありますが、妊娠中でも使える花粉症治療薬、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬など)もあるため、医師に相談してみましょう。
高リスクのある薬もあるため、自己判断での服用はやめましょう。市販薬も同様です。
授乳中は妊娠中よりも赤ちゃんに与える影響は小さいですが、医師に相談するか、一時的な授乳の中止を検討するとよいでしょう。
●花粉症薬を使用する際の注意点
妊娠中の薬の使用は、「リスクを上回る利益がある場合」に限られます。つまり、使わずに済むなら、それに越したことはありません。
妊婦さんが飲んだ薬の成分は、母体の血液に入って全身をめぐり、胎盤を経て胎児の血液中に入ります。授乳中も同様で、薬剤が母乳に含まれるのです。
特に、胎児の重要臓器がつくられる妊娠初期(妊娠5か月まで)は、原則として使用を避けます。 比較的安全とされる妊娠6か月以降でも、赤ちゃんの機能的な発育に影響を与えるおそれがあります。
一般的には、薬を使用する場合は、母体の血液に入る薬の成分量が少なくて済む点鼻薬(鼻噴霧)・点眼薬がよいとされています。内服薬は点鼻・点眼などの局所投与に比べ、多量の薬剤成分が血液中に移行するためですが、いずれにせよ自己判断での使用はせず医師の指示に従うことが大切です。
妊婦さんが薬を使わずできる花粉症の対策は?
これまで説明してきた通り、花粉症の薬は、使わなくて済むならそれに越したことはありません。薬の使用を考える前に試してほしいのは、花粉との接触をできるだけ避けること。花粉症はアレルギー性鼻炎なので、原因物質(アレルゲン)である花粉が鼻や目に入らなければ、症状を抑えられます。
ここからは生活上の予防策・対策を紹介していきます。
●外出時の対策
外出時はマスクやサングラス、メガネ、帽子などを着用し、花粉がつきやすいウールなどの衣服を避けます。また、花粉の飛散量が多い日や風の強い日の外出を控えましょう。
●帰宅時の対策
外出から帰ったら家の中に入る前に服についた花粉を払い落とし、うがいや手洗い、洗顔を徹底します。花粉症状が強いようなら、服を着替えたり、鼻うがいをしたりするなども効果的です。自分だけではなく、家族にも協力してもらいながら花粉が家の中に入るのを防ぎましょう。
●自宅で過ごすときの対策
花粉の飛散量が多いと予測される時期は、 窓やドアの開放は必要最低限にとどめ、こまめに掃除をします。洗濯物は外干しせず、室内干しか乾燥機を使用するとよいでしょう。空気清浄機を活用するのもおすすめです。
●鼻や体を温める
鼻の中を蒸気で温める(43℃がおすすめ)、鼻を蒸しタオルで温める、お風呂で体を温めるなども、症状が改善する効果的な対策として知られています。
妊娠中の花粉症に関するよくある疑問
ここまでの解説で拾い切れなかった花粉症に関する妊婦さんのよくある疑問・不安を解説します。
Q1.妊娠に気づかず薬を飲んでしまった場合はどうする?
妊娠と気づかずに薬を服用しても、「妊婦には使用禁止(禁忌)」とされる薬以外は、それほど心配しなくてもよいケースが多いです。妊娠に気づいた時点で服用をやめ、産婦人科の医師に相談しましょう。
その際は、何の薬を、いつ、どれくらいの量飲んだのかをきちんと伝えることが肝心です。
また、妊娠の可能性が少しでもある場合も、服用を避け、医師に相談しましょう。
Q2.漢方なら妊娠中に飲んでも問題ない?
漢方薬も「薬」です。 自己判断で服用せず、必ず医師に相談しましょう。
Q3.レーザー治療は受けられますか?
近年、花粉症治療の一つとしてレーザー治療が広がっており、耳鼻科などを受診するとすすめられることがあるかもしれません。
しかし、妊婦さんにレーザー治療を行うかどうかは医師により判断が分かれるところです。耳鼻科でも推奨する医師がいる一方、過去に受けた経験があり産科の医師が許可した場合に限定する医師、行わない医師もいるため、産科の医師に相談しましょう。
妊婦さんの花粉症対策はまず生活上の対策を
妊娠中の薬の使用については強い不安を抱く方も多いでしょう。インターネット上では様々な情報があふれていますが、この記事で紹介した通り、低リスクで飲める薬も存在します。しかし、安全性が確実に立証されている訳ではなく、多少のリスクは伴うため、まずは「花粉をなるべく吸い込まない」「花粉を家に持ち込まない」対策を優先することが大切です。
特に「妊娠2~4か月」は胎児への影響が出やすい時期になるため、薬の使用はできる限り避けたほうがよいでしょう。
市販薬、漢方薬などを自己判断で服用するのも避けてください。
花粉症は重症化すると、我慢も難しい辛い症状に苦しむかもしれません。しかし、季節性のものですし、妊娠がずっと続くものでもありません。様々な対策で何とか薬なしで乗り切って、赤ちゃんを迎えられるとよいですね。