赤ちゃんが吐き戻しをする原因や対処法、注意したい吐き方とは
監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
生後24時間以内に生じる初期嘔吐(飲み込んでいた羊水を吐く)を終えた後も、新生児期(生後28日未満)、乳児期(生後28日から1歳未満)の赤ちゃんは、母乳やミルクを口から吐いてしまう「吐き戻し」や、口からあふれ出てしまう「溢乳(いつにゅう)」が起こります。吐き戻しは通常の嘔吐(おうと)と同様にガバッと吐くことが多い一方、溢乳は口からたらたらと流れるように出すのが特徴です。
医師や助産師から「よくあること」と事前に説明を受けていたとしても、目の当たりにしてみると「病気ではないか?」と心配になってしまうかもしれません。特に初めての赤ちゃんの場合、ママやパパは少しの変化でも不安に思いがちですが、吐き戻しや溢乳であれば生理的な現象のため、心配しなくてもよいケースが多いです。
一方で、まれに医療機関を受診したほうがよい嘔吐(病的嘔吐)があるのも事実です。赤ちゃんの様子や吐き出した内容物(吐しゃ物)を慎重に確認する必要があります。
今回は、吐き戻しや溢乳の原因、医師に相談したほうがよいケース、対処法などを紹介します。
赤ちゃんがミルクを吐き戻す主な原因は?
吐き戻しや溢乳は、おおむね生後4~5か月ごろには治まります(個人差はあります)。ミルクを吐き出してしまう原因がわかれば赤ちゃんがミルクを口から出しても比較的安心でき、対処についても理解しやすいでしょう。吐き戻しや溢乳が生じる三つの原因を紹介します。
消化器が未発達のため
生まれたばかりの赤ちゃんの胃は小さく、容量は出生時30~60ミリリットル(大さじ2~4杯分)、生後1か月で90~150ミリリットル(大さじ6~10杯分)と少量です。また、大人に比べて縦長の形をしており食道から胃への入口部分(噴門)の食道括約筋が未熟なため、逆流しやすい特徴があります。
つまり、生まれてすぐは「ふたのない小さな容器にミルクを入れるようなもの」になるため、飲み過ぎたり体勢が悪かったりすると、吐き戻しや溢乳が起こるわけです。食道や食道括約筋の発達は早く、生後6週ごろには胃食道の逆流が起こりにくくなります。逆流の減少に伴い、吐き戻しや溢流が少なくなるケースが多いようです。
また、赤ちゃんは胃を固定する靱帯がゆるく、寝返りなどによって胃がねじれやすい状態です。胃がねじれると、ねじれの部分に空気が溜まりやすく、曖気(ゲップ)と共に吐き戻しをする原因になります。
母乳やミルクと一緒に空気を飲み込んでいるため
哺乳のときに多量の空気を飲んでしまう赤ちゃんがいます。特に哺乳瓶を使うと、空気を飲みやすいようです。赤ちゃんがお腹に溜まった空気をゲップでうまく出せるようになるのは生後4~5か月ごろのため、お腹に空気が溜まり過ぎると、腹部が張ってむずかったり、吐き戻しの原因になったりします。
生後4~5か月ごろまでは、授乳後に背中をとんとん叩くなどしてゲップを促してあげると、吐き戻しや腹部膨満の予防になります。ただし、空気を飲み込まずに上手に哺乳できる赤ちゃんもいるため、特に母乳の場合はそこまで神経質にならなくてもよいでしょう。
飲むスピードや量を調節できないため
生まれたばかりの赤ちゃんは、満腹中枢が未熟なため、与えられた分だけミルクを飲んでしまいがちです。満腹中枢は「お腹いっぱい」という情報を感知する中枢神経で、脳の視床下部にあり、生後3~4か月くらいまでには発達します。
満腹中枢が発達するまでは、母乳やミルクを飲ませる量やスピードを調整しないと、飲み過ぎて溢乳や吐き戻しが生じやすくなるのです。
注意が必要な吐き戻し方
吐き戻しの原因で説明したように、赤ちゃんがミルクを吐いてしまうのは消化管や満腹中枢が未発達のためで、口からあふれ出るように少量のミルクを戻した場合、ゲップと共に吐いた場合、ミルクの色に異常がない場合などは、問題のないケースが多いです。
しかし、医療機関を受診したほうがよいケースもいくつかありますので紹介していきます。
噴水のように勢いよく大量に吐く
生後3~4週間の赤ちゃんが授乳後、ミルクを噴水のように勢いよく大量に吐いた場合は、肥厚性幽門狭窄症(ひこうせいゆうもんきょうさくしょう)という生まれつきの病気の可能性があります。胃から腸への出口に当たる幽門の筋肉が肥厚して狭くなり、ミルクの通過が悪くなる病気です。吐いた後は、機嫌よく、再度ミルクを欲しがります。また、体重が増えないのも特徴です。
肥厚性幽門狭窄症は手術が必要なケースもあり、医療機関の受診が必要になります。
吐しゃ物に赤や茶色、黄色、緑の液体などが混ざっている
赤ちゃんが吐いた内容物(吐しゃ物)の色や状態を観察しましょう。通常の吐き戻しの場合、吐しゃ物はミルク色に透明が混じった色をしていますが、次の状態には注意が必要です。
- 赤・茶・黒の色が混じる:胃や肺の出血、母乳への血の混入(乳頭の傷から血が出ているなど)が考えられます。胃の出血は、新生児メレナ(ビタミンKの不足による消化管出血)、急性胃粘膜病変、潰瘍、腸回転異常などが考えられます。
- 黄・緑の色が混じる:十二指腸に分泌される胆汁が混じった場合の色です。腸の閉鎖や狭窄、腸回転異常などが考えられます。
- 泡が混じる:ぶくぶくとした泡が多く混じっている場合は、気管が食道に繋がった食道閉鎖が考えられます。出生後すぐに泡が混じった吐き戻しをするのが特徴です。
これら1~3のケースは、すぐに医療機関への受診が必要になります。
また、吐き戻したミルクがドロドロとしたヨーグルト状になっていると心配になるかもしれませんが、ヨーグルト状の場合は消化途中のミルクを吐き戻している状態のため、問題ないケースが多いです。しかし、この状態が続く場合は、逆流性食道炎になりやすいため、早めに受診しましょう。
吐しゃ物の色や状態に問題がなくとも、医療機関を受診したほうがよい場合もあります。赤ちゃんが吐き戻した際は、全身の観察が重要です。必ず次の項目もチェックしてください。
吐き戻し後にぐったりしている、過度に泣く、発熱や下痢の症状がある
発熱や頭痛(激しく泣く)があれば、脳や脊髄をおおう髄膜が感染して炎症を起こす髄膜炎の可能性が考えられます。
繰り返し吐き戻しがあり、お腹が張っている様子(腹部膨満)や腹痛の様子(激しく泣く)が見られれば、前述の肥厚性幽門狭窄症や、胃食道逆流症、胃軸捻転、下部消化管閉塞・狭窄、腸閉塞(イレウス)など、消化管の異常が考えられます。消化管の異常による嘔吐は「便秘がある」「体重増加がない」などが重要なバロメーターです。
上記以外にも、胃腸炎やその他の感染症、頭部の打撲・外傷による頭蓋内出血などでも繰り返しの嘔吐が見られます。感染症では発熱や元気がなくぐったりした様子、頭蓋内出血では顔色が悪くぐったりした様子、意識の混濁、けいれんなどがチェックポイントです。
これらの様子が見られれば、速やかに医療機関を受診しましょう。特に意識の異常やけいれんがあれば、注意が必要です。危険な嘔吐の場合はほとんどの赤ちゃんの場合、ぐったりしたり機嫌が悪かったりなど「いつもと違う様子」が見られます。普段から赤ちゃんの様子をよく観察することが重要です。
赤ちゃんがミルクを吐き戻した後にやるとよいこと
赤ちゃんが吐き戻した後、どう対処すればよいか悩むママ・パパも多いでしょう。前の項目に医療機関を受診したほうがよいケースをあげましたが、最初に説明したとおり、赤ちゃんは消化管の機能や満腹中枢が未発達なため、病気でなくてもよく吐きます。吐き戻しや溢乳は、生理的な現象です。
全身状態や吐しゃ物に異常がなく、繰り返し頻繁に吐くようでなければ、自宅で次の対処をしましょう。
顔や口の中をきれいにして横向きにする
吐き戻した後は、口のまわりや顔についた吐しゃ物を湿らせたガーゼなどでぬぐってきれいにしてあげます。また、口の中に吐しゃ物が多く残っていると、まれですが窒息の可能性があるため、吐き気が治まれば口の中を確認し、吐しゃ物を指で取り除いてきれいにしてあげましょう。
寝かせるときは、上体を少し高くして顔を横に向かせるか、丸めたタオルなどを置いて体を少し傾かせ、様子を見ましょう。夜に寝る際は、窒息の原因になる可能性があるため、丸めたタオルの使用は避けます。
様子を見てから汚れた衣類を取り替える
赤ちゃんは繰り返し吐き戻す場合があるため、汚れた衣類はすぐに取り替えず、少し様子を見てから交換します。機嫌が悪いなら、落ち着くように優しく抱っこしてあげましょう。抱っこする際は、自分の肩や胸にタオルを当てておくと、赤ちゃんが再び吐いても服が汚れず安心です。
溢乳や吐き戻しの汚れは、放っておくと母乳やミルクに含まれるタンパク質や脂質が固まって黄ばんでしまいます。交換後は、早めに洗濯したいところです。すぐに洗濯できなければ、ベビー用の洗剤を入れたぬるま湯に浸しておくとよいでしょう。
また、繰り返し吐くからといって汚れた衣類をずっと着続けさせるのは避け、汚れたら毎回交換します。衣類が濡れたままだと、体が冷えて風邪をひく原因にもなります。
少し時間をおいて水分補給をする
脱水を予防するため、水分補給が必要です。吐いた後、1~2時間ほど様子を見て、赤ちゃんが再び水分を飲めそうなら、赤ちゃん用経口補水液、麦茶、ミルクなどを与えます。まずはスプーン一杯ほどの量から初めて、10分おきなどに少しずつ飲ませていきましょう。
柑橘系のジュースや乳酸菌飲料など、酸味のある飲み物は吐き気を誘うため控えます。牛乳は厚生労働省のガイドラインで1歳過ぎが望ましいとされており、浸透圧が高く胃に負担がかかるために避けたほうがよいでしょう。
赤ちゃんの吐き戻しを減らすための対処法
赤ちゃんは生理的に溢乳や吐き戻しをしやすいものですが、いくつかの工夫で減らすことは可能です。四つの対処法を紹介します。
1回に飲む量を調節する
赤ちゃんの飲み過ぎによって吐き戻しているケースがあるため、授乳量を調整してみましょう。離乳食が始まるまでの赤ちゃんの1日のミルク授乳量の目安は、体重1キログラム当たり約100~200ミリリットルですが、赤ちゃんの月齢や体重によって目安となる授乳量は異なります。病院や新生児訪問、出産後の定期健診などで適正な授乳量について相談するとよいでしょう。母乳の場合は、授乳前と授乳後の赤ちゃんの体重を量ると、1回の授乳で飲んだ量がわかります。
適正な授乳量を把握するほか、1回の量を減らして回数を増やすのもおすすめです。満腹中枢が未発達の赤ちゃんは、口に含ませれば含ませるほど飲んでしまいます。
授乳のスピードを調節する
哺乳瓶による授乳の場合、乳首や飲み口のサイズが月齢に合わないと、赤ちゃんの飲むスピードが速くなり多めに飲む原因になります。赤ちゃんの月齢にあった乳首を使用しましょう。
縦抱きで授乳する
縦抱きで授乳するとミルクが逆流しにくく、十二指腸にも到達しやすくなるため、吐き戻しの防止に効果的です。授乳後もしばらく縦抱きにすると、ゲップが出やすくなります。
ただし首が座らないうちの縦抱きは十分な注意が必要です。頭と腰をしっかりと支えて、首が後ろに倒れたり、落下や脱臼などのトラブルを起こしたりしないようにしましょう。
ゲップをさせる
赤ちゃんはミルクと一緒に空気も飲み込みやすく、ゲップをしないとお腹に空気が溜まって吐き戻しの原因になるケースが多いです。特に哺乳瓶の場合は空気を飲み込みやすいので、授乳後はなるべくゲップをさせましょう。吐き戻しによる窒息も報告されています。ただし、母乳の場合は上手に飲めてゲップをしない赤ちゃんもいるため、あまり心配せずともよいでしょう。
赤ちゃんの「体の機能」の成長を見守ろう
赤ちゃんの溢乳や吐き戻しは多くの場合、よく見られる生理的な現象です。けれども、目の当たりにしたり何度も続いたりすると心配になることもあるでしょう。特に初めての育児なら不安も大きいと思います。頻繁な洗濯も負担になるかもしれません。
今回の記事では、赤ちゃんを育てるママ・パパの負担や心が少しでも軽くなるよう、医療機関の受診が必要なポイントや吐き戻し後の対応、吐き戻しを減らす対処法などを紹介しました。
生理的な吐き戻しや溢乳は、生後4~5か月ごろまでには治まるケースが多いです。長くとも1歳までには吐きにくくなります。小児科医の先生や助産師さん、先輩ママ・パパ、ご両親などの力を借りながら、赤ちゃんの胃や満腹中枢、哺乳力などの機能が成長するまで見守ってくださいね。